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【2024/05/19 09:42 】 |
希望の終焉(妹ゾンが終わりだなんて!)

「この世の終わりだわ!私は来月から、一体何を長期的な道標として生きていけばいいのよ!?」

 いつも通りに大げさだなぁ、いったいなにがあったんだよ。

「『妹がゾンビなんですけど!4』が今週末にスマッシュ文庫から発売される(この文章を書き始めた当時の話。11/09に発売済み)のだけれど、今回が最終巻らしいのよ……スマッシュ文庫妹組レーベルもまともに動いてないし、生きる楽しみがまた一つ減ってしまうじゃない……。」

 なんだ、ただの宣伝か。


   ◇ ◇ ◇ ◇ 


 嘆いているところ、悪いけれどさ。妹ゾン(公式略称)って、キミがそんなに嘆くほど面白かったっけ?

「どういう意味よ……もしかしなくて、喧嘩を売っているのかしら。」

 いや、そうじゃなくって。妹ゾンのウリが何なのか、私には今一つ判らないんだよね。
 
 スマッシュ文庫のウリってさ、文章そのものの技法が(例えば講談社Booksの作家みたいに)云々っていうよりは、構成や舞台設定で実験的(斜め上)なことを全力でやるところにあると思うんだよ。
 
 例えば、今年発売されたスマッシュ文庫のうちのほぼ半分が何らかの形でメタな方向性を取り扱った作品だし、あとはタイトル見ただけで判る地ら……もとい、変わった設定のものが多かったり。

「そういえば、8月に出た新刊は全部(2冊だけど)メタ風だったわね。奥の細道オブザデットやらがでがでやらに代表されるような、構造は正しいのに使われている名詞がおかしいタイトルの作品は多いわね。」

 あとは自衛官やらお笑い芸人やら、物書きじゃない経歴のひとを連れてきたりだとか……そういった、ラノベじゃあんまりやらないことをやってみる、みたいなところが売りだと思うんだよ。

「そりゃまぁ、弱小レーベルですもの。文章だけでうならせるような変態技巧の人は他に行ってしまうから、構成やら設定やらで勝負するしかないわよね。逆に構成やらを売りにするなら、まぁ、文章に関しては基礎ができていればとりあえずはいいわってことになって、結果的にどれもこれも文章が多少堅苦しくても仕方ないわよね。結果的に斜め上って評価せざるを得ないレーベルになるわよね。」

 話の腰を折りたくはないんだが……キミ、スマッシュ文庫に恨みでもあるのかよ。

「だ い す き に き ま っ て る じ ゃ な い。

 恨みなんてものがあるなら、妹モノでもない新刊を片っ端から買ったりはしないわ。」

 好きなんだったら、もっと、こう……棘の無い説明をするっていうか、褒める方向性で感想を述べたらいいんじゃないかなぁ。
 
「面白いは面白いのだけれど、その面白さはあるべきものに目を瞑った前提で得られるモノなのよ。だから褒めるに褒められない……このキモチ、判ってくれるかしら。」

 言い回しが判りにくいよ。でも単純にさ、面白いんだったら面白いって言えば良いんじゃないの?

「そうね……喩えるならば、『ブリーチってマジ面白いよね』っていうのと同じことになるのかしら。」

 キミ、もしかしてケンカ売ってんのか!?

「普通の人は突出しているところを見るんじゃなくて、基準値を満たしていないところを見るものだってことよ。

 まぁ、ともかく。アナタがさっき言いかけていたのは、スマッシュ文庫の作品は『(ラノベの分野内で見た時に)何か他ではあまりやらない、オモシロイことをやっている』という点が売りで、評価すべき点ってことよね?」
 
 そうそう。『小説っていう分野全体でみると既に一つのジャンルとして確立していたりするけど、ラノベではあんまり見かけない要素』を何かしら入れているんだよね。
 例えば……あまり扱われない舞台設定の話を本職の人を連れてきて書かせたり、叙述トリックだとかメタだとかを扱った堅苦しくない……『ライトな』小説を出したり。
 
(そう、あくまでも『ライトノベル』だっていうことに拘っているんだと思うんだよ。それが巧く行っているのか判らないけれど。)

「他には、何を血迷ったのか知らないけれど、春には発売される新刊4冊がすべて妹モノだったりもしたわね!」

(それは少し論旨が違うような……いや、他がやりそうにないことをやるっていう意味ではその通りなんだけど……。只でさえ発刊数少ないのにニッチなレーベル内レーベル作るなんて、冒険心溢れてるよなぁ。)

 そんな風に、『何か、他にはない物がある』っていうところが面白いし、そういう要素があるからあえてスマッシュ文庫のライトノベルを購入していると思うんだけどさ。
 
 
 『妹がゾンビなんですけど!』って、何か他と違う、メインとなる要素ってあったっけ?
 
 
   ◇ ◇ ◇ ◇ 
 
 
「『妹が』ゾンビだからという理由では、十分じゃないのかしら?」

 あぁ、勿論キミが妹モノのラノベが好きなことは知っているよ。購入していた妹モノのタイトルが一つ減るのが残念なのは判るさ。
 
 けれどね、キミがそれ以外にも山のように購入している妹モノのラノベのなかでも、特に妹ゾンビを推している印象を受けるのは私の気のせいではないよね。だとしたら、それは何故だい?
 
 まずは妹モノという観点から見ると、キミの好みのツンデレ系妹ではないし、ブラコン妹やらキモウトやらのジャンルで考えても特に突出している訳じゃないよね。

「そうね、妹ゾンの姫ノ花ちゃんは盲目的な妹だけれど、おにあいの秋子ちゃんとかデッドエンドラプソディ(ラノベ)のシオンちゃんとかのほうが盲目的妹としての完成度は高いわね。」

 じゃあ、妹であることを抜きにして考えるとどうだろう?
 
 先刻言った通り、スマッシュ文庫のウリっていうのは他でやらないことをやっていることで、それは例えばメタメタしかったり、世界設定が面白かったり、あとはラノベの文法を他の職業の視点から再構築していることだったりということなのだけれど……これはメタ作品でも、他職の人を連れてきて書いたわけでもないのは直ぐ判るから、じゃあ、世界設定が面白いのかな?って問題設定が行える。
 
 でも、別に世界設定は特に面白く(斜め上で)無いよね?
 
 これはタイトル通りに妹がゾンビとして復活する話だ。同じくスマッシュ文庫には『奥の細道オブザデッド』というゾンビものがあるけれど、これと妹ゾンの間には設定の突出性(斜め上さ)として大きく違いがある。

「『時代劇+○○』っていう構図はラノベでは珍しい構図で、何よりもタイトルが斜め上よね。妹ゾンは……言っちゃあなんだけど、その前に『妹+○○』の流れがまさにあって、尚且つゾンビがアニメ化していたから……。」

 そう、全く以て驚きのない設定なんだよね。あの時期を考えると、確実に誰か出すだろう(誰か出すだろうから誰も出さない)チープな設定だ。(確かにそこで敢えて出すのは斜め上と言えば斜め上なんだけれど。)

 そして、言うまでも無く文章力も構成力も良くない……っていうか、はっきり言って悪い。小説家でなく『ライトノベル作家』の新人だから、文章力に期待するなと言えばそれまでだよ。それでもだ……一巻のほとんどのページで、下半分が真っ白というのはさ、商業物として何かがおかしいよね。

「(ちょっとばかし、言い過ぎだと思うわ。)」

 構成力(ストーリー)も文章力(没入感)も設定(独自性)も妹力(?)も無いんだったら、一体全体何が面白いんだ?何故キミにとって妹ゾンの評価が、キミの買っているラノベの中でも最高クラスなんだい?

「決まっているじゃない。姫ノ花ちゃんが可愛いからよ。」


   ◇ ◇ ◇ ◇ 


 一寸待ってくれよ。先ほど『姫ノ花』は妹キャラとして突出していないということを確認したばかりだよね。妹ゾンを高く評価する理由として姫ノ花が可愛いということを挙げるのはおかしいじゃないか。

「あぁ、ちょっと言い方が拙かったかしら。『皆可愛いから』よ。」

 ……何を言っているのか判らないからさ、短いフレーズに意味を乗せすぎるのは止めてくれない?説明をしてくれよ。

「そうしたいのは山々なのだけれど……普通にラノベを評価する基準はアナタが先刻言ったもので挙げられちゃっているから、説明するにしても相応しい言葉が挙げにくいのよねぇ。」

 なら、説明でなくとも、好きなところをなんとなく挙げることはできるかい?

「そうね……。好きなところを挙げるとしたら、細かく大量に挙げることが可能だわ。姫ノ花ちゃんが生肉うじゅるうじゅるしているところとか姫ノ花ちゃんが過 激 愛(デン・ジャ・ラス)!なのに所謂盲目さが薄いところとか姫ノ花ちゃんが……」

 あ、うん……そういうのを大きく纏めたら、大体どんな意味になるかってことなんだけど。

「この、幾らあげてもきりがない姫ノ花ちゃんを纏めればいいわけね?」

 そうだね。(おかしいな。先刻、妹ゾンを評価する理由として『皆可愛いから』って言っていたはずなのに、姫ノ花(妹キャラ)の話しかしていないような……。)


   ◇ ◇ ◇ ◇ 


「整ったわ。」

 ん。じゃあ聞き直すけれど、妹ゾンが好きな(妹ゾンを評価する)理由は大雑把に言ってなんなんだい?

「キャラクターじゃないキャラクター性と物語じゃない物語性かしらね。」

 その心は?

「まずは前者だけれど……先刻、『皆可愛いから』ってことは言ったわね?」

 そうだね。けれど、登場人物が魅力的であることっていうのは、そのキャラクターがしっかりしているということであるはずだよね。それなのに、『キャラクターじゃない』っていうのはどういうことかな。

「キャラクターが魅力的であるための大きな条件の一つに、『ブレない』ということが挙げられるわ。これは期待に反することをしない、と言い換えれるのかしらね。
 そして一般的に、キャラクターがブレていないか(魅力的か)を判断する方法として、キャラクターの一貫性(所謂『キャラっぽさ』、このキャラクターは『○○○○』というキャラだ、って短い言葉で表せられること)が問われるの。キャラクター性を表す言葉に、どれだけキャラクターが一致しているかということね。例えば『ツンデレキャラ』なら不自然でない範囲で如何に極端にツンデレさが表現されているか、あるいはいかに様々な視点(様々なエピソード)でツンデレさが表現されているか、ということを見るの。
 つまり、一般的には
 
◇まずキャラクターを『このキャラは○○○○なキャラだ』という言葉で表して

◇『○○○○』であることを様々な方法で示してあるか、そして全てのエピソードは『○○○○』であることと一致しているかを見る

 ことで、キャラクターが魅力的なのかを判断している訳ね。けど、妹ゾンはこの判断基準に沿っていないにも拘らずキャラクターが魅力的……というより、この判断基準は『ブレなさ』の十分条件に過ぎないのよ。」

 えーっと。先刻の話に沿って言うと
 
◇姫ノ花は『盲目的な妹キャラだ』

◇『盲目的な妹キャラ』であることを示すエピソードの豊富さと全てのエピソードで『盲目的な妹キャラ』であるかどうかの判断基準では[姫ノ花]は[秋子]や[シオン]に勝てない(=キャラクター性が弱い)

◇しかし姫ノ花は『ブレていない』ため、秋子やシオンに劣らず魅力的である

 という論理なのかな?


「そんな感じね。キャラを一言で言い表すことはできないけれど、ブレていないの。喩えるなら、そうね、『モブばっかりなのに良く見ると書き込みがヤバい』という感じかしら。」

 いつも通りに喩が判りにくいな。一見して特徴が無いように見えるけれど、完成度が高いって言いたいのかな。

 けれど、妹ゾンの登場キャラって、言うほど完成度高いかなぁ。

「完成度というか……えーっと、キャラクター性って、主に言動とエピソードで肉付けされるわよね?」

 ツンデレだったら、語尾が吃ったり回りくどい行為を寄せるとか、そういったことかい?

「ええ。ま、さっきもエピソードって言葉を使ったし、二重の説明になるかもしれないけれど……

 さっき言った一貫性っていうのは、それらエピソードが共通の(分かり易い、対応する言葉がある)属性を持っているってことで表現されるの。逆に、エピソードが何らかの共通点を持っている(矛盾が無い)ことがブレなさなのね。

 妹ゾンのキャラクターを表すエピソードは……その……独自性が強いっていうか表現する言葉が無いって言うか無理に言葉で表現しようとすると一貫性を保てないって言うか独立した物に見えるっていうか……その……。」
 
 『個性的』な、しかもバラバラな(ように見える)エピソードで、キャラが構成されているよね。生肉とブラコンと謎の語尾に対して適切な一貫性の言葉を与えることは出来そうにないや。

「そう、そういうことなのだけど、そういう風に言うと悪く聞こえるけれど、それこそが妹ゾンのキャラクターの真骨頂なのよ。

 つまり、エピソードに共通する丁度いい言葉が(今は未だ)無いのに、エピソード間には矛盾が無い。妹ゾンのキャラは、所謂キャラクター性が見えないのに、『ブレていない』のよ。これがキャラクターじゃないキャラクター性があるって言った意味なのだけど……」

 姫ノ花だったら『妹キャラ』せつらだったら『天才科学者』みたいな、○○キャラの文法では表しきれない魅力(キャラクター性)があるっていいたいんだよね、多分
 
(私には判らないからなんとも判断がつかないけれど、悠の気のせいじゃないかなぁ。)

「多分、そういうこと。私には、この作者の伊藤ちはや先生が、キャラクターメイキングの天才に思えるのよ。」

[全体に共通する、この、私にとって魅力的である彼女らの持つ雰囲気について、業だとかそのへんの言葉で説明できそうな気がしますが、今は割愛します。]


   ◇ ◇ ◇ ◇ 


 キャラ的じゃないキャラ性の話は分かったさ。でも、物語でない物語性ってなんなんだよ、恰好付けすぎだよ堅苦しく言い過ぎだよ。
 
 どう考えても、この人は物語構成が絶望的に下手じゃないか。

「ぜ、絶望的は流石に言い過ぎだと思うわよ……。
 起承転結自体はちゃんとしているし、結末に理不尽さは無いし(あっても到来の予測できる程度のご都合主義がやってくるだけだし)話の大枠、構成力そのものは存外にちゃんとしているわよ?」

 話の流れそのものが理不尽でなくても、そのつなぎが飛び飛び(離散的、年表的、細かな整合性を放棄)なのはラノベ小説家としてどうなんだよ……。

「いいのよ、文章力程度は。

 母親の発言を正確に翻訳することと比べたらこの程度の悪文の脳内補完なんて、児戯にも劣る程度の難易度だわ。」

(や、だから、キミにとって読みにくくないかどうかが問題な訳じゃなくてだね……。

 ラノベだからこそ読みやすくなくちゃいけないし、逆に言うと読みやすくしなきゃいけないんだから、ラノベを書くって下手に小説書くより難しい(と思う)んだってば。
 ライトに読めなければいけないからこそ、場面のつなぎで何が起きたかを考える必要がないような、丁寧で分かり易い文章を書くっていうことを、難しいけれどちゃんとこなす度量が要ると思うんだけどな。)

「そもそもここで言いたいことは、本文が読みやすいかとかそういう話じゃないわよ。(寧ろ、ページの上半分しか読まなくていいんだから。読みやすいとさえいえるわ!)

 姫ノ花ちゃんの周りに起きた出来事(語り)を、敢えて物語の典型に押し込めないという構成(文体?)が、妹ゾンのウリなんだって。私はそう思うの。」
 
 ライトノベルなのに、軽く楽しめる物語の読み物なのに、物語として完成していないことが売りだって?

「ライトノベルだから、楽しく読めればそれでいい物だからこそ、物語として不完全であることを売りにできるのよ。」

 ……ん?なんか、前提としてる考えが食い違ってる感じがしない?

「そうね。
 恐らくだけれど、アナタの考えでは、
 真っ当なライトノベルの条件として、最低限、物語としての整合性が取れていないといけない。例えば唐突なご都合主義的展開は絶対にあってはならないし、作品を書く時、物語としての出来を良くするということを唯一最大の目的として据えなければいけない。
 
 ということなのよね?」

 そうだね、っていうか至極当然のことじゃん。
 そう、私が思ってるのは、物語として面白くない小説ってなんなんだってこと……少なくとも、物語として面白くない『ライトノベル』ってなんなんだってことだよ。

 言うまでも無いだろうけれど、物語として不完全な文章が物語として面白いはずはないよね。だからまず第一に、物語としての出来が保障されていることはライトノベルとしての必要条件だよ。
 作者の力量の問題で多少のご都合主義が展開されることは許容できても、そもそも物語にするつもりがない物を許容する訳にはいかないじゃないか。

「真っ当な意見ね。でも、ライトノベルの(小説の)目的って、出来の良い物語を構築することなのかしら?」

 そうだよ。いくら挑戦的なことをやっていたとしてもだ、ノベルって読まれるために書いているのだから、そもそも読んでいて面白くないノベルを書いちゃいけないだろう。

 【かまいたち娘は毒舌がキレキレです】も【青サバ】も【ラノベの女神ちゃん】も、挑戦的なことはやっていたが、(程度の差はあれ)あくまで物語として完結していたさ。何度も言うが、何かやるにしても、物語になっていることは必要条件だよ。

「違うわ。『読めて』かつ『面白ければ』いいのよ。物語として完成されていれば『読めて面白い』ことは保証されるけれど、必要条件ではないわ。

 つまり、物語として不出来であっても『読める程度』の出来があれば良くて、かつ『面白い』ことをやっていればそれでいい訳。」
 
 言っていることの論理自体は判るけど、それってどういうことだよ。
 
 ああつまり、完成品としての『物語として不出来だが面白い』の存在を認めるってことは、『それを満した場合、物語として完成させられない面白さ』が存在することを認めるってことだよね?物語と両立不可能な面白さというものがあるって言ってるんだよね?(両立可能なら、物語としても面白くすればいいだけの話なのだから。)
 
「そうよ。妹ゾンに存在する魅力は、物語として一見完成していないという、まさにその事実に依存しているわ。物語の不整合に見える箇所にこそ、魅力の根源が含まれているのよ。(尤も、魅力の根源となんら関係の無い、改善すべき明らかな不整合もあるのだけれどね。)

 だから、この作品に於いては、物語として完成させることは最大の目的ではないのよ。」
 
 じゃあ、それは何だよ。物語として完成させることを二の次にするほどの目的って、魅力って、挑戦って何なんだよ。

「端的に言えば、登場人物が物語に矛盾していることよ。物語の目的と登場人物の目的が食い違うということよ。」

 判りにくいから、端的に言わないでほしいんだけど。

「んーと、テーマよ。」

 だから端的に言うなと……テーマ?テーマって、物語の主題のことだよね?

 物語の主題を第一目的に据えてちゃんとやったら、物語はちゃんと完成するよね。
 ってか、テーマが一貫している物語って言うのが良くできた物語じゃないか。言ってることがおかしくない?

「いえ、良い物語を書く上でテーマとテーマの一貫性は大事だけれど、テーマという概念そのものは物語という枠組みよりも上位のモノよ。というより、物語の形式で表現できるテーマって、テーマの中のごく一部の簡単な物だけなのよ。

 つまり、物語としては普通扱わない、ちゃんとは扱えないテーマを描き出そうとしているところが魅力……そう表現すればいいのかしらね。
 
 そして、それを――物語ではちゃんとは扱えないテーマを主目的に据えた以上、物語としてみれば不完全にならざるを得ないのよ。」

 物語の枠に納められないようなテーマをあえて扱うという挑戦をしていて、だからこそ物語としては不完全にならざるを得ないってこと?

 でも、これ自体はラノベ(=物語)だよね?『物語として扱えないテーマ』とやらを、じゃあ、どうやって扱っているんだい。

「物語と登場人物に異なるテーマを割り当てることによって、かしら。

 前述の通り、物語は簡単なテーマを扱えないわ。だからまず、物語全体のテーマとしては、真のテーマに近いものを設定するの。(たとえば1巻だったら……家族愛かしら?)
 
 その中で、物語のテーマと矛盾する言動を登場人物に取らせるの。(だって、物語のテーマそのものは仮の、簡単なテーマに過ぎないのですから。)
 
 登場人物そのものも、真のテーマと完全に一致しているわけでは無いわ。けれど、物語と登場人物の指し示すテーマの差異……二つのテーマの交差点みたいな箇所に真のテーマが見える。そんな感じよ。」

 物語と、物語の文脈に反する登場人物の行動によって、物語だけでは表現できないテーマを扱う、ねえ……。

「胡散臭く聞こえるでしょうけど、そういうことよ。」

 うん、正直机上の空論にしか聞こえないよ。作者が本当にそんなことを意図しているとは思えないね。

「作者がこの手法を意図したというよりは、元から物語で扱えないテーマを採用してしまった所為で、扱えないテーマを扱おうとした所為で、意図したわけでもなくこうなってしまったと言った方が正しいのかもしれないわね。
 ま、どちらでもいいことよ。その、扱い切れないテーマを真剣に扱っていることが魅力なのだから。」

(そもそも、扱い切れないテーマを扱うだなんて大層なことを、本当にしているのかねぇ。悠が好意的に解釈しすぎて、只の悪文の中に、存在しないテーマを勝手に見出してるだけなんじゃないのかなぁ。)



 んじゃ、ここまで散々引っ張ってきた、その扱い切れないテーマとかいう大層な物って、なんなのさ。

「んー、思春期の葛藤?」

 は?

「頭でっかちな若者が陥る葛藤かしら。思春期の悩み?」

 えーっと。いや、キミが短い言葉に意味を詰め込み過ぎる傾向にあることを鑑みてもだ、何を言っているのか判らないって意味じゃなくてね。
 
 え?なに、『思春期の悩み』って。そんなこと?そんなありふれたテーマが、キミが今まで言っていた『物語で扱い切れないテーマ』が指示しているモノなの?
 『物語で扱い切れない』どころか、散々、片っ端から、ラノベのほぼ全てにおいて使い古されているテーマじゃないか。

「使い古されている?冗談じゃないわ。まともに扱い切られていないわよ。誰もまともに扱えなかったから、散々扱われているテーマなんじゃない。」

 いやいや、そうじゃなくて、今までまともに扱えた人が居たかどうかの話じゃなくて。そのテーマを扱って、かつ物語の形式を維持するのは可能だろうって言ってるんだよ。
 実際にそのテーマを扱って、かつ物語している人は幾らでもいるだろ。

「いいえ、違うわ。それらは物語にするために、本来のテーマを曲げているのよ。物語の形に合わせてテーマを押し込めているだけなのよ。その当然の帰結としてテーマを消化しきれていなかったの。」

 そんな真偽の確認できない抽象的な返答をされても困るよ?

 なんていうか、思春期の心理描写が目的なら、それこそ『自分語りをする主人公』の話でいいじゃないか。ちゃんと物語になるじゃないか。

「いいえ、違うの。自分語りをする主人公の物語で扱えるのは主人公の自分語りとして表すために適切なテーマだけなのよ。というか、自分語りをする主人公のキャラクターに演じさせることのできるテーマなんて、心情なんて、ごく一部でしかないわ。

 あくまでも『主人公が』自分語りをする以上、物語のテーマと主人公のテーマは一致していないといけないわ。だから、結局自分語りをする主人公が語れる内容なんて、物語が扱える内容と変わらないのよ。
 
 主人公という一貫したキャラクター性に収まる程度の高尚な悩みしか表現不可能なわけ。主人公として魅力的なキャラクターが悩める範囲でしか悩めないわけ。そこが物語の限界なのよ。
 判るかしら、物語として完成するには主人公のキャラクター性と主人公の目的と物語のテーマが一致している必要があるから、主人公に相応しくないテーマや物語にできないテーマは扱えないの。」

(や、『判るかしら』って、似たような抽象的な文章を繰り返されても、聞き手の情報量は増えてないからね?)

 若人の悩みなんていう、不定形で結果としては大したことではないテーマからじゃ、物語や主人公は作れない……だから物語にするためには、そもそもその悩みをスタイリッシュな(?)ある程度定型化された(?)ものに整形しなければならない。それでは正しくテーマを扱ったことにならない
 
 ……そんな感じの意味で言ったのかな。

「ええ、そうね。そんな感じね。」

 だからさー、抽象的すぎる上にこじつけっぽいんだけど。

「そうかしら、非常に単純な話だと思うわよ。

 思春期の悩みをそのまま物語に転用可能なら、全ての中学生は素晴らしい物語を書けるはずじゃない。
 
 だから、それを真剣に扱う限りに於いて、物語として不完全なのは当然だと言っているだけよ。」

 ……喩の誤謬はツッコまないよ。
 
 言ってることは判らなくもないけど、その落としどころを探すのが……如何に物語として面白く、かつそれらしく扱うかが、作家の仕事でしょうが。
 やっぱり、物語として面白くないのはナンセンスだよ。物語としての面白さを維持しつつ、やりたいことに漸近していくのがプロの仕事ってやつだよ。

「いえ、ですから、そのアプローチはそもそも可用性が低いと……漸近できるものの範囲が狭すぎると言っているのだけれど……。」


   ◇ ◇ ◇ ◇ 


「ともかく。ここまでを纏めると。妹ゾンの魅力はキャラクターのキャラが薄いように見えて実は凄く出来が良い(出来が良いっていうと誤解釈を生むかしら?所謂キャラ性は薄いけれど、単語で表せない一貫性が存在するの。)ことと、一見物語と登場人物の行動に祖語が見えるけれど、そこから一貫したテーマを示しているという、二つがあるってことね。」

 そーだね。抽象的だし胡散臭いし今一つ何言ってるかわかんないけどね。

「そして、私が主張したいのは、この二つの親和性こそが妹ゾンを完成物足らしめているということなのよ!」

(まだ続くのかよ!?)

「もうちょっとだけ続くのだわ。ま、長くなってきたし、簡単に抽象的に展望だけ示すことにとどめるけれど……

 前提として、

◇妹ゾンのキャラは可愛い

◇キャラの可愛さは、所謂キャラクターらしさが無いことに(一言でキャラを言い表せないことに)依存している

 という点はいいかしら。」

 へー、そうだったんだ。

「そうなのよ。

 ただ、問題として、普通にこのキャラクターを動かそうとすると、扱いが難しいの。キャラが勝手に動くどころか、物語の空気を読まないのよ。」

 『こういうキャラだ』って扱えないから、そもそも登場人物として適切じゃないってことだね?物語の要請上言うべき台詞を言ってくれそうにないってことだね。

「だから、普通に物語をしようとすると、もっと使いやすいようにキャラクタライズする必要があるわけ。でも、キャラクター性が無いことにキャラの可愛さが依存している以上、キャラクター性を強めたら可愛さが激減してしまうのよ。判るかしら、普通に物語をしようとすると、物語が破たんするか、キャラの可愛さが激減するかしてしまうのね。」

 物語の空気を読めないキャラだからってことだね。物語を破たんさせるか、空気の読めなさ(とそれに依存する可愛さ)を減らすしかないってことだね。

「けれど、テーマ先行で物語としての完成を目的としないアプローチなら、そもそも登場人物が物語の空気を読む必要が無いってわけ。というよりも、キャラの方がテーマにより近い存在だから、物語が多少破綻してもキャラがぶれないことを優先させれば問題ないのよ。」

 それが今言った親和性の意味ってことだね。

「ええ、その通りよ。この親和性が奇蹟的な挑戦なのね。」

(寧ろ、存在しない挑戦と素晴らしさを捻出するために、今までの面倒くさい話をでっちあげてるように聞こえるんだけどなぁ。)

「判るかしら、この、唯一的な可愛いキャラというキャラ小説としての究極形と、テーマを限りなく純粋に再現するという究極形。二つの究極が生み出す奇蹟が、ここにあるわ。ライトノベルという形式の完成形といっても過言でないわね。」

(面白い物語っていう、一番重要な要素が抜けているけどね。)


   ◇ ◇ ◇ ◇ 


「以上が妹ゾンの魅力であり、私がこの作品を買い続けている理由よ。理解してくれたかしら。」

 まぁ、キミが無駄に妹ゾンが好きだってゆうことは理解したよ。


   ◇ ◇ ◇ ◇ 


 10月末に着想を得ていたはずなのに、いざ書き終わった今はもう11月だよ。

「想像以上に難産だったわね……。」

 しかも設定上、未だ妹ゾン4巻を買う前の話なんだろ、これ。

「そうね。ここから4巻のサイン会に行った話と4巻の感想と勢い余って1~3巻の感想を書く作業が残っているわね。」

 サイン会なんてやってたんだ……。なんていうか、スマッシュ文庫は挑戦心に溢れているな。

「サイン会が行われるってことは、アナタの想像が及ばないくらいに妹ゾンのファンは多いという意味よ、妹ゾンは魅力的という意味よ。参ったかしら!」

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【2012/11/25 23:33 】 | ゆ~ゆ~ゆ~ | 有り難いご意見(0)
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