◇ ◇ ◇ ◇
いや、私が周囲と比較しておかしな判断・評価を下していることは前々から自覚しているよ。
でも、それは単に価値判断の基準としているモノが周囲と異なっているだけで、価値判断の基準自体は(一般的ではないけれど)説明が可能で、理にはかなっているはずのモノなんだ(理にかなっていると思っていたんだ)。
だからまぁ、私がゴーイングマイウェイなだけで、別にそれはそれで問題ないと思っていたんだよ。
「(一般的に理解されない『理』って、『理』と言えるのかしら?)
そう……私は先刻、『今まで自身の判断がおかしいということに気付いていなかったのか』という意味で『何を今更』と言ったけれど、そう言う意味ではオカシイことは知っていたのね。
でも、今回別に何かがおかしいことに気付いたのよね。それはなにかしら。」
うん……。
先日後輩に、私がイラコンで下した評価がおかしいって、ちょっとツッコまれてさ。私の評価基準を説明したんだよ。
その時私は3つの評価基準で選んだつもりで、その3つの基準を説明したんだけど
(や、ちゃんと説明できてたかとかそもそも評価基準って言っても誰かに説明するつもりで作ってた評価基準じゃないから説明が拙かったりとかつーかもうあれ聞いてる側からしたら言い訳を考えるのに時間稼ぎしてるようにしか見えないよなあぁもう!)
……ともかく。基準を頭の中にあるぼんやりとした思考じゃなくって、言語化して説明したんだよ。
で、その時に(言語化したから)気付いたんだけれど、どうも私が自覚していた以外――3つの基準以外の、別の自覚していなかった評価基準があったみたいで、しかもそれが『私の下す評価がおかしい』ことの根本的な原因になっているようなんだ。
それが、最初に言った、『私の下す評価がおかしい』ことに気付いたってことの意味になるね。
「自分が変なのは自覚してたけれど(それは説明できる・論理的な?変さのつもりで)、自覚していた以外の変さがあったってことね。」
うん、そうなんだ。
「それって、その時後輩が言ってた『主観』ってやつじゃないの?えーっと、アナタの評価には合理性よりも(合理性以外にも?)主観が(多分に?)含まれている、みたいなことを言われていた気がするじゃない。」
うん、そうだといえばそうだよ。ただ、直感だとか主観だとか言うには、なんていうか『基準』然としていて……しかも奇妙にねじれているんだ。
「そんな漠然なことを言われても困るわよ。単に、それが『主観』だって認めたくなくて(アナタが自身の評価に主観を入れていることを認めたくなくって)適当なことを言っているだけじゃないの?説明が長ったらしいだけで、主観と同じものを説明しているように聞こえるわ」
そうだと思うよ、そうだと思いたい。
ただ、それが漠然とした感覚・主観じゃなくって、説明可能な価値基準だったらと考えると、とても恐ろしいんだ。
「何が恐ろしいのよ。自身の基準を再把握しただけじゃない。」
ねじれてるって言ったろう。それが価値基準だったとしたら、間違った価値基準だっていう予感があるんだ。
『間違った価値基準』だよ。『他者と異なる価値基準』でなくて『論理矛盾がある価値基準』でもなくって『間違った価値基準』なんだ。
何が恐ろしいって、その間違いは正さなきゃいけないってことを考えると恐ろしいんだよ。
「それって、間違った考えを改めるという程度のことでしょう?何を恐れるのよ。」
間違った思考を改めるんじゃなくって、間違った『価値基準』を改めなきゃいけないからさ。
思考と違って、価値基準は人格形成の元になっているものなんだ。だから、間違った価値基準が改められるってことは人格が改められる……最初から作り直されるってことになるだろう。それって、私が死ぬのと何が違うんだ?それって、自殺と何が違うんだ?
でも、もしもその主観に見えるものが間違った価値基準だったと判明してしまったら、私が私である以上、私はそれを正さなきゃいけないんだよ。今まで見えなかったし、見えなければ遭遇するはずは無かったのに、そっちを見てしまったら、そして見えてしまったら、私は死んでしまうんだ。恐怖以外の何物でもないじゃないか。
「相変わらず大げさね。ちょっと考えを変えたり、至らなかったところを直すってだけの話でしょう?自我が死ぬだの死なぬだの、そんなことになるわけないじゃない。」
いや、でも、今までの人生でよりどころにしていたものが間違っているかもしれないってことなんだよ?おおげさなことなのか?
「大げさって言うか……アナタがそれに直面するのが他の人よりもちょっと遅かっただけで、それくらい普通のこと誰しもが経験していることなんじゃないかしら。
だいたいさ、アナタの今の発言、悪癖を直すのが面倒だから、大げさに騒ぎ立てているだけなんじゃないかって邪推することもできるわよ?」
あー、うん、邪推って言うかそうじゃないかって気はするんだよ。でも、主観である私には、それを確認するすべがないんだ。
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